「アンチウイルスソフトを複数インストールするのは危険」
この台詞はいわゆる「パソコン初心者向けサイト/雑誌」でも頻繁に見ることが出来る訳ですが、この台詞はどういう意味なのだろうか、というところから話を始めます。
前提として、アプリケーションというのは組み合わせ次第で「競合」「相性問題」といった現象を起こしうる代物です。新しいソフトを精力的に試している人なら「何故か分からないが動作しなかった」ということが希にあると思います。ライブラリとかランタイムとかそういう問題でなくて、何故かどうしても動作しないアプリ。ああいうのは基本的には、既に入っているどれかのアプリと相性が悪い、ということ、が多いと思います。
だから世界中のあらゆるアプリがそうであるように、アンチウイルスソフトも他のアプリと「競合しうる」。でもそれは正直言って交通事故のような存在であって、遭遇してしまったら「運が悪かった」と思うのが「一般的」な対処法です。だから雑誌だってウェブだって何らかのアプリを紹介する時にイチイチ「ひょっとしたら何かのアプリと相性悪かったりする可能性もある、ような気がします」なんて書かない。
問題なのは、「何故アンチウイルスは他の種類のアプリよりもそういった現象を起こしやすいのか」ということです。アンチウイルスだけにそういう記述があるのには理由があり、つまりアンチウイルスソフトが他のソフトよりもシステムの深部に入り込むソフトだからです。深部に入り込むソフトであるが故に、その「深部」において「競合」「相性問題」を起こしやすい。
さて、では「アンチウイルソフト」というモノの仕事を羅列しましょう。
- (ファイルやフォルダの)右クリックメニューからファイルをスキャンしパターン一致やパターン解析によってそのファイルがウイルスに侵されているかを判断する
- 上記のスキャンを、定められたスケジュールに従い実行する
- メールソフトとメールサーバーの間にローカルプロキシとして入り込み受信メールをスキャンする
- ブラウザとウェブサーバーの間にローカルプロキシとして入り込み受信データをスキャンする
他にもソフトによって実装していたり実装していなかったりする機能もありますが、メインとなるのは上記でしょうか。さて。
- 右クリックメニューからソフトでファイルを開き、そのファイルに対し何らかの処理を行う
- タスクスケジュールからソフトを起動しドライブ内のファイルに対し何らかの処理を行う
ここに、「アンチウイルスソフト特有の競合/相性問題」は存在し得ない。これは別に圧縮解凍ソフトでもコーデック判別ソフトでもMP3タグ編集ソフトでもデフラグソフトでも行っている処理です。
- メールソフトとメールサーバーの間にローカルプロキシとして入り込み何らかの処理をする
- ブラウザとウェブサーバーの間にローカルプロキシとして入り込み何らかの処理をする
ここになると少し違ってくる。例えばアンチウイルスソフトAとBを同時にインストールしていたら
メールサーバー→アンチウイルスA→アンチウイルスB→メールソフト
といった具合にデータが転送されないと正常に動作しない。例えばメールサーバーからのデータをアンチウイルスAとBが取り合ってしまったら問題が起こる。ブラウザでも話は同じで。こういった、本来想定していない転送(単独でインストールされている場合とは異なる転送)に、自動であれ詳細設定が必要であれ、対応しているソフトであれば問題(アンチウイルスソフト特有の)は起こらない。
ここでは触れませんが、更にシステムの深部に関わる「仕事」であれば更に問題が発生する可能性は高くなる。何が言いたいかというと、「ウイルスを探す」という処理自体に問題がある訳ではなくて、「それを確実にする」という部分(例えば添付ファイルを手動スキャンするより自動でスキャンした方が安全だ)に「アンチウイルスソフトを複数入れると問題が起こりやすい」という、その「起こりやすい」の原因がある。
この世には数多くの「アンチウイルスソフト」が存在します。それは逆に言うと、それだけ「完璧」なソフトは無い、ということでもあります。
※参考
Warezのためのウイルス防衛術
市販の有名アンチウイルスではトロイの驚異を現実的に消すことができない、という話
超初級ウイルスすり抜け講座
圧縮書庫やCDイメージ内ファイルに隠蔽されたウイルスを検出するには、という話
アンチウイルスソフトの「常駐機能(例えば上記のようにメーラーやブラウザとサーバーの間に入り込む機能)」は有用ですが、それがアンチウイルスソフトを「競合/相性問題が起こりやすいソフト」にしている原因でもある。本来、「右クリックでパターンファイルとファイルを照合しウイルスを探す」程度の処理であれば問題が起こる可能性は極めて低い。
だからこそ、「ウイルス対策」ということを真面目に考えるのであれば、フリーのアンチウイルスソフト・・・それは多くの場合常駐機能を持つ有料版から常駐機能を外して無料で配布されている・・・の存在を無視してはいけないと思います。あるアンチウイルスソフトでは発見できないが他のソフトでは発見できるウイルスもある。あるアンチウイルスソフトでしかスキャンできない形式のファイルもある。
例えば、僕が提案するのは、市販アンチウイルスソフト(常駐機能有り)+何らかの方向に強い海外製フリーアンチウイルスソフト(常駐機能無し)です。「何らかの方向」というのは考え方次第です。「トロイに強い」でも「CDイメージ内のスキャンに対応している」でも何でもいいです。Antinnyの時は「局所的なウイルスでも対応が迅速」というソフトの株が上がりましたね。どのような点を重視するかというのは、つまり「自分が使っているメインアンチウイルスは何に弱いのか」「自分はどういった方面に強いアンチウイルスを必要としているのか」という点次第です。
「ノートン買ったからフリーはどうでもいいや」という考え方は実のところ危険でもある。総じて「市販ソフト>フリーソフト」なのは事実かもしれませんが、基本的にアンチウイルスソフトというのは「どれか一つでOK」というタイプのツールではない。「一匹でも魚が網から抜けたら終わり」という世界であり、そして穴のない網が存在しない以上、基本的に網の枚数は多い方が良い。
これは僕自身も反省しなくてはいけない話なんですが、どうしても「アンチウイルス」というのは紹介する際に「あー競合とかで苦情くると嫌だなぁ」という防御姿勢を見せざるを得ないソフトなので「どれか一つにしようぜ」という論調が目立ってしまう訳ですが、「何故『一つにしよう』と言われるのか」という点を踏まえた上で、自分にとってベストな組み合わせ・・・つまり競合などの問題が起こらずお互いの弱点をフォローし合える組み合わせ・・・を、探していくべきソフトだと思います。